Page:朝鮮巫俗の研究 上券.djvu/2

From Wikisource
Jump to navigation Jump to search
This page has been proofread.

序言

本來朝鮮の巫俗はかの北方民族に通有なる薩滿敎(Shamanism)の一支流であるから宗敎史的にはそれは原始宗敎の一形態であり、社會史的には所謂薩滿敎的原始文化の一段階に屬し、從つてそれはわが朝鮮に於ける最も古い信仰及び行事の一として現在も尙ほ民衆殊に婦人の間に廣く行はれてゐる習俗である。さればそれは朝鮮民間の宗敎とその社會相とを理解する爲めには、實に缺ぐべからざる一大資料であるのみならず、由來朝鮮と支那との文化的關係からこの習俗の內容にも著しく佛敎や道敎其他の南方文化の影響を蒙つた爲に、他民族の薩滿敎とは特に異なつた發達を遂げて今日に及んだのであつて、玆にも深く注意すべき特徵が見出されるのである。そこで吾々も年來この民俗に關心をもつて調査を進めて來たが、幸に去る昭和五年から同八年に至るまで、帝國學士院學術硏究費の補助を得て、殆ど全鮮の要地に亙りその實地踏査を試みる機會を與へられ、更に昭和十年及び十一年には服部報公會からその硏究報吿の編纂及び出版費を援助された爲めに、今漸く本書を公刋し得るに至つた次第である。玆に吾々は先づ帝國學士院竝に服部報公會とその當局各位に對して、衷心より謝意を表明しなければならない。

本硏究は上下二卷より成り、上卷は專ら巫の祭祀卽ち賽神に於いて唱誦される神歌と祝詞